(4:48〜 開会、3:35:35〜ショートプレゼン、4:49:00〜講演+パネルディスカッション)
2020年度は、新型コロナの感染拡大を予防するため、テレワーク、移動の制限・自粛など、自由に外出するということの意味の大きさを感じた年でした。
4月5月に開催した緊急フォーラムでは、公共交通の財政的危機を中心に大勢の方と課題を共有し、また、外出自粛による高齢者のフレイルなどの状況を共有し、今後の福祉的視点をもっての支援の在り方についても考えたものでした。
10月の本フォーラムでは、「外出自粛の時だからこそ『移動』について語ろう」と哲学的なアプローチを試みることとし、また、今まで大事にしてきた双方向の意見交換を実現するため、zoomを活用したトークルームを設置、さらには、今までのポスターセッションに代わる情報発信の時間も設けることに取り組みました。オンライン開催というITを活用し、さらに双方向の議論を確保するための実行委員会の挑戦は、一定の成果を得ることが出来たと考えます。
◆開会の挨拶
実行委員長 岡村敏之(東洋大学教授)
◆ショートメッセージ
久保田雅晴氏(国土交通省 公共交通・物流政策審議官)
◆総合司会
大野悠貴(名古屋大学大学院)
1.リレートーク 10:10 ~ 10:50
テーマ:WITHコロナと暮らしの足?現在地と少し先の未来を語る?
コーディネーター:若菜千穂(NPO法人いわて地域づくり支援センター)
登壇者:宮崎耕輔(香川高等専門学校)
:伊藤昌毅(東京大学)
:菊岡文哉(潤井戸タクシー)
グラフィックレコーディング:中嶋伸恵(合同会社おでかけカンパニー)
冒頭にコーディネーターの若菜氏より、フォーラムのオープニングで本コーナーが現状コロナの第3波が予測される中で、事業者がどのようなかじ取りをするか、公共交通に乗り合うことで効率化していくという前提から個人輸送とどのようにバランスをとっていくかという課題がありながらも、未来志向の明るい課題提起へと期待が述べられました。
最初の登壇は交通事業者代表として、千葉県市原市で事業を営む潤井戸タクシーの菊岡氏から、運行収入が4,5月に前年度比50%を切ったからコロナ対策を実施した上で、助成金・補助金を受けながら事業継続を行っている現状の説明がありました。そして、今後については、人口減少と過疎化の状況の中で絶対に欠かせないのは、動きたくても動けない人の“地域の個別輸送に対する期待感”に応えることであり、事業継続のため、従前から実施していた居宅介護や旅行事業などに加え、女性ドライバーなどによる無料保育園やヘルパードライバーの採用促進など、A-B間輸送+αで地域に密着した新たなニーズの創出をめざしている、それが今後のタクシー像である、と述べられました。
次に宮崎氏から、平成15年に青森県平賀町で実施した交通行動の実証分析の結果から、気になる点として以下が提示されました。
地方において移動手段としていて気軽に送迎を頼む人がいないグループ(=外出のしづらいグループ)層はマイカーを運転できるグループ層と比べて「憩う」という目的の割合の外出が半分ほどになっている。
コロナ禍に関わらない社会環境の変化としては、団塊の世代が70歳を超えサポートして欲しい人が増え、サポート側の供給不足が発生している。そして中山間地域だけでなく、市街地域においても自動車の運転が辛い理由と思われるコミュニティバス・デマンドバスの要求が増えている。外出ニーズの多様化、高齢化などの社会構造的な課題も大きく、地域交通は生活を支えるためにも「福祉輸送」の重要性が増している。
コロナ禍のステイホームにより「減らせる移動と減らせない移動」がある。質の観点で「憩いの外出」の抑制があるのではないかという推測から、課題は量と質を総合的に判断する必要がある、との見解も示されました。
次に伊藤氏から、高齢化・生産年齢人口減、地方の過疎化といった変化の中で、右肩上がりを前提とした制度・思考での公共インフラ構築には無理があり、コロナ禍によりそれが露呈したのではないか、という見解がなされました。コロナ禍では「本当に必要な外出はなにか」を考える機会とし、地域密着で一点モノの交通をつくるのではなく、データ活用により業務を標準化して全体をとらえた仕組み(一人一人と向き合い過ぎない、地域に向き合い過ぎない、全体を捉えた仕組み)がつくられ、それが地域で動くようにすべきではないかという考えが示されました。
このあとのディスカッションでは、伊藤氏の提言に対し、若菜氏は、「みんなが標準化してしまうと”選ばれるタクシー“という概念自体が失われてしまう。そうではなく、共通基盤で合理化するからこそ見えてくる個性、独自性を磨いて加えていくことではないか」と発言し、菊岡氏は「タクシー標準化し、マニュアル化すると提供するサービスは同じになる。だからこそ、自社は介護や障がい者支援の部分で乗務員が資格も取得し輸送以外のプラスアルファを付け加える。人口減少、自動運転化においても、必ず人の助けが必要なニーズはあり、そこに焦点を当て、”移動手段“から”サービス“へと変貌していきたい」と述べ、地域密着型の事業として標準化だけではなく独自性もはやり必要であろうという見方や、業者間・エリアの横展開ではなく、サービスとしての横展開をすすめていくという方向も示されました。
伊藤氏が提言した、タクシーのような移動手段のITとデータ活用での標準化されたサービスの実現の可能性と、過疎化・高齢化とコロナ禍で厳しい状況となった地方で事業者が地域の高齢者に「減らせない移動」をどのように提供していくか、という課題を示すセッションでした。
グラフィックレコーディング 中嶋伸恵氏(おでかけカンパニー)
2.なんでも井戸端会議 10:55 ~ 12:10
11の個人・団体が多岐にわたるテーマを持って参加しました。
今までのフォーラムでも取り組んできたグループディスカッションや、一昨年からスタートしたオープンカンファレンスをオンライン開催の中で、どう活かすことが出来るか?
「なんでも井戸端会議」として、参加者との意見交換の場を持てたことは、フォーラムの目指す「参加型」をつくることにつながりました。
①地域支えあい型の買い物支援・サロン送迎のこと、なんでも答えます
コーディネーター:河崎民子(全国移動サービスネットワーク)
②加藤博和・時局放談「おでかけ復興のため、いまこそ決起せよ!」
コーディネーター:加藤博和(名古屋大学)
③自治体担当者と交通事業者の付き合い方
コーディネーター:井原雄人(早稲田大学)
④地方運輸局員に聞きたい・言いたい
コーディネーター:大石信太郎(近畿運輸局)
⑤新人・若手のあなたへ”何か面白いこと考えて”と言われたら・・・
コーディネーター:大野悠貴(名古屋大学)
⑥アフターコロナに芽生える新たなビジネスモデル
コーディネーター:岩村龍一(コミュニティタクシー)
⑦くらしの足を支える様々な工夫の共有
コーディネーター:吉田樹(福島大学)
⑧公共交通オープンデータを作ろう、使おう
コーディネーター:伊藤昌毅(東京大学)
⑨グラレコでリレートークの議論を深掘りしよう(仮)
コーディネーター:宮崎耕輔(香川高等専門学校)
⑩どぎゃんかせんといかん!九州と移動を語る会~熊本豪雨災害から見えるもの~
コーディネーター:大井尚司(大分大学)
⑪地域が見える、便利なのりものマップ教室
コーディネーター:岡將男(NPO法人公共の交通ラクダ)
昼食休憩の間、下記の映像を紹介しました。
3.くらしの足事例集の動画を上映 (映像8編)
①福祉有償運送の紹介
NPO法人野の花ネットワーク(神奈川県秦野市)
②弘南バスによる出前講座開催
弘南バス㈱(青森県弘前市)
③ご存じですか?外出を支援するサービス
認定NPO法人かながわ福祉移動サービスネットワーク(神奈川県横浜市)
④青森県内初!交通すごろく
弘南バス㈱(青森県弘前市)
⑤菊名おでかけバス
コミバス市民の会(神奈川県横浜市)
⑥ミニチュアの町で出前講座
弘南バス㈱(青森県弘前市)
⑦地域と心をつなぐコミュニティバス
まるごと市政(兵庫県西宮市)
⑧「バスぷら博士」出前講座
弘南バス㈱(青森県弘前市)
4・ショートプレゼン 13:30 ~ 14:30
進行:福本雅之(実行委員 おでかけカンパニー)
昨年までのポスターセッションに代わって、参加者それぞれの取り組み紹介の時間を設け、
11名の参加者と実行委員会からのアンケートのお願いを含め、12名の発表がありました。
①3分でわかる「withコロナでの平成筑豊鉄道」
河合賢一(平成筑豊鉄道 代表取締役社長)
②タクシー会社向けオンライン研修の挑戦!
大野慶太(一社全国子育てタクシー協会会長)
③演劇祭モビリティからはじまるスマートコミュニティの挑戦
野津直樹(豊岡スマートコミュニティ推進機構
(株)トラフィックブレイン豊岡演劇際2020モビリティディレクター)
④バス停カメラマン
柴田秀一郎
⑤標準的なバス情報フォーマット(GTFS-JP)の普及状況
西澤 明(標準的なバス情報フォーマット広め隊 日本バス情報協会(仮)設立準備会)
⑥WG03 MaaSへの取り組み 2020年 研究テーマのご紹介
(一社)運輸デジタルビジネス協会事務局)
⑦次世代モビリティに向けたドコモの取り組み ~AIバスのご紹介~
㈱NTTドコモ法人ビジネス本部 モビリティビジネス推進室
⑧地域モビリティサービス事例から始めるデータ利活用
大月 誠(NPO法人ITS Japan)
⑨ハイヤー・タクシー業 高齢者の活躍に向けたガイドライン
竹ノ内博美(東京交通新聞社)
⑩コミュニティカーシェアリングと『災害支援活動の取り組み』について
垣内雅仁(一社)日本カーシェアリング協会 コミュニティサポート部)
⑪走る小さな居場所 仏向ふれあいワゴン~地域の夢の実現に向けて~
中村美奈(横浜市仏向地域ケアプラザ)
⑫アンケート「乗合タクシー」「自家用有償旅客運送」の呼び名について
大石信太郎(くらしの足をみんなで考える全国フォーラム実行委員)
5.講 演 14:45 ~ 15:30
講 師:後藤 玲子氏(一橋大学経済研究所)
テーマ:ケーパビリティ調査 ~外出・在宅の自由を実現するために求められるかたち~
経済学・経済哲学を専門とし、国立市福祉有償運送運営協議会会長も務められている後藤氏から、外出支援の目的として、
①公共性の空間を創出すること
②個人のケーパビリティ(潜在能力)を保障すること
の2点、さらに国立市で2018年に実施された高齢者・障がい者の外出に関する調査の結果報告の紹介の話をいただきました。
冒頭に、家から外出することなく半生を送ったエミリー・デキンソンの詩「歓喜とは出ていくこと」を引用し、「自分自身と対話をして自分と仲たがいをしないでいる孤独」の状態であること、同じような友が遠隔に居て、そのすきまに広がっている公共の空間があり、「協同」「連帯」をしていること、は他なる自己である友や、共有している仲間たちから見捨てられることである「孤絶」または「孤立」とは異なり、とても大事なことであること語られました。次に後藤氏のエッセイ「思想は車に乗って」を紹介し、難しい公と私の位置取りについて、福祉有償運送を原型とした「親密圏と公共圏を結ぶ猫道をくるくる廻る公共車」になぞらえ、(コミュニティにおいて移動=モビリティは)いざとなったら風のようにやってきて、普段の生活で発生する「圧」を抜く(暴発をおこさない)役割を担っていると述べられました。
一方個人に焦点を合わせると、外にいる/家でくつろぐ、どちらも本人の自由でできる条件を十分に備えたうえで「支援された選択」を可能とするのがケーパビリティであるが、現代の日本においてこの条件をだれもが備えているとは言えないのではないかと問題をあげ、移動の取り組みは個人の在宅を豊かにする仕組みと連動しており、近隣、市民、国全体が責任をもって行う仕組みであるという考えを表されました。
コロナ禍で学生などは外出対在宅の達成点は変化したもののケーパビリティの豊かさ自体は変わっていない。一方外出困難な人は達成点のみならず周りの施設の状況、制限、本人の意欲などによりケーパビリティ自体が制約されている恐れがあるということでした。
また、後藤氏が実施した高齢者、障がい者の外出に関するアンケート調査結果から、
・外出時に気になること、困ったことの調査において、
①環境バリア(段差、設備、混雑、携行品、食事、トイレ)
②対人バリア(コミュニケーション、理解、手助けなど)
③個体バリア(体調、時間や金銭の浪費)があげられた。
・外出の量と質だけでなく、在宅の量と質においても一般高齢者グループ>障がい者グループ>要支援要介護者グループ の順で低くなり、障がい者と要支援要介護者は、むしろ在宅における困難が相対的に大きいものとなっている。
・外出のポジティブな面のケーパビリティの評価軸として、Ⅰ安心、Ⅱ目的実現・健康、Ⅲ交流・刺激、Ⅳ自分らしい感じ を測ると、Ⅲに関してはどのグループにおいても在宅時の評価が顕著に低くなっており、日本のコンテキストにおいては外出のメリットはあることが推察される。
このことから、一般高齢者グループにおいても現在のコロナ禍では何とか困難さを回避しているが、この状況が続くと、様々な面でマイナスの影響がでてくる恐れがある。外出・在宅どちらもできるようにし、自由に選択できるようにしたいが、現在は適応、規制によりなんとか困難を回避している、そのことを明らかにするためにも、ケーパビリティについて個人の変化の調査を継続したい、と述べられました。
6.パネルディスカッション 15:30 ~ 16:30
テーマ:質の高い生活にむけて、あらためて「外出」をとらえなおす
コーディネーター:岡村敏之(東洋大学)
登壇者:猪井博登(富山大学)
後藤玲子(一橋大学)
篠原一也(おでかけ交通実践者:NPO法人野の花ネットワーク)
岡本英晃(交通エコモ財団):コメント(Sli.do) 担当
吉田 樹(福島大学):コメント(Sli.do) 担当
コロナ禍の状況において原点に立ち返り、質の高い生活から外出の価値、意義をとらえなおすというテーマでパネルディスカッションが開始されました。
●篠原一也氏
神奈川県秦野市で移送サービス団体を運営する篠原さんは、ネットで何でも経験できるが「お出かけをしないと得られない非日常経験が生活を豊かにする」と考え、市民ドライバーの方が支え合いで送迎を実施している。後藤先生のお話の中にあった「圧を抜く」は心に残った。介護される方も、する方もストレスがたまる、私たちは、さりげなくその「圧」を抜く存在でありたい、とお話いただきました。
●猪井博登氏
地域の公共交通の採算がだんだん厳しくなっている現在の日本の状況下で、どのように進めていくかについて課題を持っている。自分の身を削ってでも人の移動に貢献されている福祉有償運送の担い手も身近に見てきた。その中で出会った淡路島の高齢の村の地域でのボランティア助け合いの運行例をあげ、人の生活への「共感(Compassion救いたいと願う深い思いやり、慈悲心)形成による利他的な行動プロセス形成」について語られ、地域の人が公共を支えようとする「共感」が公共交通でも成り立つと思った。単に外出することだけでなく、外出できる環境といったもう1段深い外出の意義を皆さんで考える、そして、孤独に一度身を置いたからこそ理解・納得できることがあるのではないか、とお話しいただきました。
●パネルディスカッション
続いてパネルディスカッションでは、後藤先生の講演での「公共圏と親密圏をつなぐ猫道」は外出の「ニーズを満たす」視点の外側の視点からの話として始められました。後藤先生からは今の公共交通手段にはまだ改善が必要であり、福祉有償運送が猫道である。ドライバーとのつながり、安心感はバス・タクシーができない役割を担っている。また地域で移動の選択肢がたくさんあるということは豊かなことである、との説明があり、篠原さんの団体では、コミュニケーションにより外出のきっかけの下地づくりをしているという取り組みの姿勢を紹介いただきました。
次に孤独⇆孤絶・孤立について、篠原さんからは、今は外出せずともネットで用が足せ、出かけない自由もあることに気づかされたこと。猪井先生からは、このフォーラムでは、危機感を共有し何とかしなければ、という課題解決に前向きな思考を持った当事者が参加しているが、一方外出する・しないを選択できる環境構築からのアプローチも必要だという話がされました。
そして困っている人に対する「共感」に関して、後藤先生から「良きソマリア人の話」の例にとり、「隣人」であっても無関心で他者に共感ができない、他人の苦しみがわからない人もいる。だから、
理解できなくても、それをパブリックルールとして受け止め、公共的判断ができるということが大切であるとし、公共的に誰に対しても保障される仕組みを作っておくことも、もうひとつの重要な方策であることを示されましたコ
Sli.doで書き込まれた公共圏・バーチャルな場をどう捉えるかという質問に対しては、
後藤先生から、コロナ禍でエッセンシャルワーカーなど外出しなければならない人がいる一方で、視覚障害者などは職場代替がうまく行っているケースもある。外出の目的・代替できないものは何かをとらえなおすことが必要であること、そしてバーチャルな場も含めた公共圏は多層化していくのではないか、リアルでないと出来ない人が世の中に一人でもいた場合にどうするか?という問題が生じる、というコメントをいただきました。
岡本さんからも、潜在需要を顕在化させる、といったこれまでの議論を問い直さないといけない時代になってきたのではないか、移動を誰もが考える地域つくり、コミュニティづくりをしっかりすることが本質的なことであるとの意見がだされました。
最後に、午前中伊藤先生からだされた一点ものから、より標準化された交通への移行に対し、多様な選択肢を提供することは難しいのではないか?という提起について、吉田先生から、今のオペレーションを高度化する、パーツを横展開するなどで、プレーヤーが自分のできることを少し広げれば、穴を埋めていくことができるのではないかという意見、そして岡村先生からも利用者が使える一点ものを実現するための標準化は必要で、そういう面からもこの2つは対立ではなく補完するものとなりうるということで締めくくられました。
7. 閉会の挨拶
◆副実行委員長
加藤博和氏
◆顧 問
鎌田 実氏
くらしの足をみんなで考える全国フォーラム2020実行委員会事務局
メール:info@kurasinoasi.com
WEB:https://zenkokuforum.jimdofree.com/
住所:〒112-8606 東京都文京区白山5-28-20 東洋大学岡村研究室内